共有物分割請求における「全面的価格賠償」とは?
共有物分割請求を行うと、全共有者間の協議または訴訟を通じて、何らかの方法による共有物の分割が決定されます。
その方法の一つが「全面的価格賠償」であり、共有物分割の方法としては非常に有力な選択肢です。
ただし、全面的価格賠償にはメリット・デメリットの両方が存在するうえ、常に全面的価格賠償による分割が実現できるとは限りません。
全面的価格賠償を実現したい場合には、他の共有者との協議を丁寧に重ねるなど、各種の注意点を踏まえた慎重な対応が求められます。
全面的価格賠償とは?
「全面的価格賠償」とは、代償分割に位置付けられる分割方法であり、「共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法」(最高裁平成8年10月31日判決)をいい、実務上、特に共有物を共有者の一人だけが共有物件全体を取得するパターンに用いられることが多いです。
共有者のうち一人だけが共有物件を必要としており、それ以外の共有者は金銭を得たいと考えている場合には、全面的価格賠償が最適の分割方法となります。
代償分割についての詳細は、以下の記事を併せてご参照ください。
全面的価格賠償のメリット・デメリット
全面的価格賠償には、メリット・デメリットの両面があります。
よって、共有物分割方法について共有者間で協議を行う場合には、メリット・デメリットの両方を理解したうえで、他の共有物分割方法との比較を行うことが大切です。
全面的価格賠償のメリット
全面的価格賠償により共有者の一人が単独で共有物件を取得する場合、その後の物件の運用等を非常にスムーズに行うことができます。
また、現物分割と比較すると、物理的な分割を回避できることによって、物件の効用や用途の幅を損なわずに済むメリットもあります。
さらに、換価分割と比較した場合、物件を共有者の手元に残しておくことができる点もメリットといえるでしょう。
全面的価格賠償のデメリット
ただし、全面的価格賠償の場合、実際に共有物件を第三者に売却するわけではありません。
したがって、公正妥当な代償金額を計算するためには、共有物件の資産評価を必要とします。
資産評価は不動産鑑定士や不動産業者などに依頼する必要があるため、一定のコストがかかる点に注意が必要です。
また、共有物件を取得する共有者が代償金を準備できない場合には、全面的価格賠償による分割は実現できないこともデメリットの一つといえます。
全面的価格賠償を実現するために必要な手続は?
全面的価格賠償の方法による共有物分割を実現するには、共有者が他の共有者に対して「共有物分割請求」を行う必要があります。
共有物分割請求は、原則としていつでも行うことができます(民法256条1項本文)。
共有物分割請求を行う場合、まずは共有者間における「協議」を行い、協議がまとまらない場合には「訴訟」で争うという流れをとることになります。
共有者全員の協議で全面的価格賠償について合意する
共有物分割に関する協議を成立させるためには、共有者全員の同意が必要です。
したがって、全面的価格賠償の方法による共有物分割を行いたい場合には、他の共有者に対してその必要性やメリットを訴えて、納得を得ることが重要になります。
また、全面的価格賠償の方法によることで意見の一致をみても、共有物の取得者を誰にするかという点や、不動産の評価額・賠償金の金額をめぐり対立が生じることもあります。
共有物分割請求訴訟で全面的価格賠償が命じられるケースもある
また、共有物分割請求訴訟を提起した場合に裁判所が各事情を総合的に考慮したうえで、全面的価格賠償による分割を命ずる判決が言い渡されることがあります。
最高裁平成8年10月31日判決により、裁判所が全面的価格賠償を命じることができる場合の判断要素が示されており、全面的価格賠償を用いることの相当性(対象不動産を使用する必要性の高さなど)、買取金額の妥当性(客観的な不動産の評価額と整合しているかなど)、資力(実際に支払うことができるか、融資を受けられるかなど)の事情が総合的に考慮されて最終的に裁判所の判断によって決定されるため、共有者が全面的価格賠償を希望している場合でも、必ずしもそのとおりの結果になるとは限りません。
裁判所は、当事者の主張・立証内容を踏まえて分割方法に関する判決を言い渡すため、全面的価格賠償による分割を希望する場合には、上記判断要素を踏まえ、全面的価格賠償による分割が適正妥当であることを適切に主張・立証することが必要となります。
どのような場合に全面的価格賠償が認められやすいかについては、次の項目で詳しく解説します。
訴訟で全面的価格賠償が認められやすい条件は?
共有物分割請求訴訟において、前述のとおり、全面的価格賠償が認められる場合の判断要素を最高裁が示しているため、この観点を踏まえ、以下、裁判所が全面的価格賠償を認めやすい主な条件を整理します。
共有物件の現物を取得したい共有者が一人(または少数)である
共有者のうち一人だけが現物の取得を希望しており、他の共有者は共有持分の現金化を希望しているケースであれば、全面的価格賠償による分割が第一の選択肢となります。
また、現物の取得を希望する共有者が一人ではなくても、比較的少数であれば、裁判所も各共有者に係る事情を比較したうえで、現物を取得する共有者を一人に定めやすい側面があります。
これに対して、あまりにも多くの共有者が現物の取得を希望している場合には、全面的価格賠償による分割を命じる判決が言い渡される可能性は低いでしょう。
不動産の適正な評価が可能である
全面的価格賠償による分割の場合、公正な代償金額を算定するため、共有物件の評価を適正に行うことが必要です。
逆に言えば、もし不動産の適正な評価が難しい場合には、適正な代償金額を定めることに支障があるため、全面的価格賠償による分割を実現することは困難といえます。
現物の取得者に代償金の支払い能力がある
全面的価格賠償による分割を命じる判決が言い渡されても、現物を取得した共有者が代償金をきちんと支払わない場合、共有者間で不公平が生じてしまいます。
そのため、共有物分割請求訴訟では、現物を取得する共有者の資産や収入などの調査が行われます。
そのうえで、代償金の支払能力が十分にあることが確認された場合には、全面的価格賠償による分割を命ずる判決が言い渡される可能性は高まるといえます。
全面的価格賠償による共有物分割請求は弁護士にご相談ください
全面的価格賠償による分割を実現するためには、他の共有者に対して共有物分割請求を行う必要があります。
しかし、実際に全面的価格賠償が認められるかどうかは、協議や訴訟の結果次第です。
そのため、協議や訴訟の場では、専門的知見を踏まえ、全面的価格賠償による分割が最善の手段であることをきちんとアピールする必要があります。
もし全面的価格賠償による共有物分割を希望される場合には、お早めに弁護士にご相談ください。弁護士にご相談いただければ、専門的な共有物分割請求の手続を全般的にサポートいたします。
また、全面的価格賠償についてどのように他の共有者を説得するか、訴訟でどのように主張・立証を行うべきかについても、戦略検討の段階から親身になってアドバイスいたします。