共有とは?共有状態のメリット・デメリットについて
土地や建物などを複数人が共同で取得した場合、民法上の「共有」が生じます。この「共有」とは、どのような状態を指すのでしょうか。
また、「共有」状態のメリットやデメリットとしては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
共有状態にある物について今後の対応方針を決める際には、弁護士に相談しながらメリット・デメリットの比較を行いましょう。
民法上の「共有」とは
民法上の「共有」とは、複数の者が一つの物に対して、一定の割合(持分)で所有権をもつことを意味します。この場合、共有者がその物に対して有する所有権の割合を「共有持分」といいます。
たとえば、AとBがそれぞれ2000万円ずつを出し合い、一筆の土地を購入したとします。この場合、AとBが出資した金額が等しいので、両者がそれぞれ2分の1ずつ土地の共有持分を取得するのが一般的です。
共有物の「使用」「管理」「変更」
民法上、共有物については「使用」「保存」「管理」「変更」に関するルールが定められています。
それぞれ何を意味するのか、民法上のルールがどうなっているのかについて見ていきましょう。
共有者は単独で共有物全体を「使用」可能
共有物の「使用」とは文字どおり、共有物をその用法に従って使用することをいいます。
たとえば建物であれば、その建物の中に立ち入って利用したり、建物に住んだりすることを指します。共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができます(民法249条)。
たとえば前述の例で、2分の1しか共有持分を持たないAは、土地の2分の1だけを使用できるのではなく、土地全体を使用することができます。これは当然、Bについても同様です。
ただし、共有物を単独で占有する共有者の1人に対して他の共有者は、不当利得金または損害賠償金の請求をすることができるとされており(最判平成12・4・7判時1713号50頁)、共有物を単独で占有している共有者は、無償で当該共有物全体を使用できるわけではないという点には注意が必要です。
共有物の「保存」は各共有者が単独で行うことができる
共有物の「保存」とは、共有物の現状を維持し、かつ他の共有者の利益を害さない行為をいいます。
たとえば建物であれば、損壊部分の修理や、定期点検などが「保存」行為に該当します。土地であれば、繁殖している雑草を除去する行為などが「保存」行為に当たります。
共有物の保存行為は、各共有者が単独で行うことが可能です(民法252条但し書)。
共有物の「管理」は、共有者の持分の価格に従い、その過半数の同意が必要
共有物の「管理」とは、共有物の利用改良行為をいい、より詳細には以下の行為を意味します。
・「利用」行為
→共有物の性質を変更せずに、共有物から収益を上げる行為。
例えば、一般的な土地の賃貸借契約の締結は「利用」行為に含まれると解されますが(最判昭和39年1月23日最高裁判所裁判集民事71号275頁)、借地借家法の適用がある土地・建物賃貸借については、後述する「変更」に当たると解する見解があり、賃貸借については個別具体的な事情に応じて判断する必要があります。
・「改良」行為
→共有物の価値を増大させる行為。
増改築には至らない程度の、建物の模様替えや共有地の地ならしなどが「改良」行為に該当します。
共有物の管理行為をするには、共有者の持分の価格(共有者の頭数ではない点に注意が必要です)に従い、その過半数の共有持分割合を有する共有者の同意が必要です(民法252条本文)。
たとえば前述の例では、AとBはそれぞれ2分の1ずつしか共有持分を有していないので、いずれも単独の同意では過半数に到達しません。
したがって、土地を賃貸するなどの管理行為を行う場合には、AとB双方の同意が必要となります。
共有物の「変更」には共有者全員の同意が必要
共有物の「変更」とは、共有物の性質または形状を変える行為を意味します。共有物の変更を行うには、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。
なお、共有物の法律上の変更である処分がここでいう「変更」に該当するか否かについては争いがありますが、いずれにせよ共有物の法的処分に共有者全員の同意を必要とすることに変わりありません。
共有者全員の同意が必要な行為として、典型的には共有物全体の売却行為があり、土地であれば用途変更(田畑→宅地など)、建物であれば増改築なども「変更」に該当すると解されます。
共有状態のメリットは?
物を共有状態としておくことには、「取得費用の軽減」と「税制上の優遇効果」という2つのメリットがあります。
取得費用を複数人で分担できる
土地や建物など、取得したい資産が高額の場合には、誰か一人が単独で購入資金を準備することが難しいケースもあるでしょう。
この場合、資産を共有することを前提として、複数人が共同で資金を拠出すれば、一人当たりが拠出すべき取得費用の負担は軽減されます。
マイホームの場合、税制上の優遇効果が大きくなることがある
本記事出稿時点(2021年●月●日)の税制上、マイホーム(居住用不動産)の土地・建物については、「住宅ローン減税」と「3,000万円の特別控除の特例」という2つの税制優遇措置が設けられています。
【参考】
・「No.1213 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」(国税庁)
・「No.3302 マイホームを売ったときの特例」(国税庁)
「住宅ローン減税」は、年末の住宅ローン残高に応じて、最大40万円まで所得税・住民税の税額を控除する制度です。「3,000万円の特別控除の特例」は、居住用財産の譲渡所得を最大3,000万円まで控除する特例です。
これら2つの税制優遇措置は、共有の場合はそれぞれについて適用が認められるため、単純に共有者の数だけ優遇幅の上限が増えることになります。
共有状態のデメリットは?
一方、共有状態には以下のとおりデメリットも多く、共有者間の関係性によっては物を共有状態のままにしておくことは望ましくないケースがあります。
共有物の運用や処分をスムーズに行いづらい
共有状態において最大のネックとなるのは、「管理」「変更」の各行為について、共有者間での意思決定が必要になる点です。
たとえば土地や建物を賃貸に出したい、第三者に売却したいなどと思っても、共有者間で意見が食い違っている場合には、これらの行為をスムーズに行うことができません。
意思決定の機動性の観点からは、共有よりも単独所有のほうがはるかに勝ります。
共有者間での紛争を誘発しやすい
共有物の管理・処分などについて、共有者間で意見の食い違いが生じると、そのことから共有者同士の関係性が悪化してしまうおそれがあります。
また、共有持分権者に相続が発生すると、さらに権利が相続人に細分化され、権利関係が複雑になるおそれもあります。
これまで円満な関係性を築いてきた共有者同士が、共有物に関する紛争によって仲違いしてしまうとすれば非常にもったいないことです。
紛争の火種をなくすためにも、共有状態としておくことに積極的なメリットがない限り、共有状態は早めに解消しておくことが推奨されます。
共有物は分割請求が認められる
共有状態を解消するためには、共有物の分割請求を行いましょう。
共有者は原則として、いつでも他の共有者に対して共有物の分割請求を行うことが認められています(民法256条1項本文)。
共有物の分割請求には様々な方法・手続がありますので、共有状態のデメリットを踏まえて、共有関係を解消したいとお考えの場合は、一度弁護士にご相談ください。
共有関係についてのお悩みは弁護士にご相談ください
共有物の管理行為、変更行為には共有者間の意思決定が必要となるため、共有者同士の紛争を誘発しやすいデメリットがあります。
共有物を円滑に運用・処分するために共有関係を解消したいとお考えの方、その他共有状態に関する法律上のアドバイスを必要とされている方は、一度弁護士までご相談ください。