共有物分割請求訴訟における不動産評価・不動産鑑定について

弁護士 高田 佳匡 (たかた よしまさ)

共有物分割請求訴訟では、分割の方法によっては不動産の評価を行う必要が生じます。

特に不動産鑑定を行う場合には、複数の工程を含む手続が必要になるうえ、費用も相応にかかるので注意が必要です。

共有物分割請求訴訟を実際に提起する前に、不動産評価・不動産鑑定に関する正しい理解を身に着けておきましょう。

共有物分割請求訴訟において不動産の評価が必要となる場合

共有物分割請求訴訟に関する一連の手続の中で、不動産の評価が必要となるのは、基本的に以下の2つの場合です。

代償分割を行う場合

代償分割とは、一部の共有者が共有物件の現物を取得し、その見返りとして、その他の共有者に代償金を支払う分割方法をいいます。

代償分割を行う場合、第三者に実際に共有物件を売却するわけではないので、代償金額を算出するために不動産の評価が必要となります。

競売による換価分割を行う場合

判決によって換価分割(実際に共有物件を売却し、代金を共有者間で分けること)が命じられ、形式的競売の手続がとられる場合にも、不動産の評価が必要となります。

形式的競売の手続では、売却基準価額を決定するため、評価人による共有物件の評価が行われます。執行裁判所は、評価人として不動産鑑定士を選任し、不動産鑑定による評価を行うことが一般的です。

本記事では、形式的競売の過程で行われる不動産評価(不動産鑑定)についての解説は割愛します。形式的競売についての詳しい解説は、以下の記事をご参照ください。

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代償分割時の不動産評価の方法

代償分割を行う際には、代償金額を定めるため、不動産の評価を行うことが必須となります。

代償分割時の不動産の評価方法は、主に「評価合意」による場合と、不動産鑑定士による鑑定を行う場合の2つに分かれます。

共有者間の合意により評価額を定めることが多い

共有物分割請求訴訟では、不動産の評価を共有者全員の合意によって定めることが多いです(評価合意)。不動産の評価を厳密に行おうとすると、不動産鑑定士による鑑定評価が必要となります。

しかし、鑑定には費用と時間がかかり、そのコストは基本的に共有者全員で負担することになるケースが多いです。そもそも代償分割に際して不動産の評価を行う目的は、共有者間で公平に代償金額を定めることにあります。

この点、共有者間で評価合意が成立するのであれば、共有者間の公平という趣旨は損なわれないので、評価合意を基に代償金額を決定することが認められているのです。

裁判所としても、共有物分割請求訴訟では、当事者間で評価合意を成立させるように促すのが通例となっています。評価合意により共有物件の評価額を定める際には、不動産業者の査定書などを参考にするのが一般的です。

評価合意が成立しない場合は不動産鑑定士による鑑定

共有者間で評価方法などについて大きな意見の相違がある場合には、評価合意を成立させることが困難というケースも考えられます。その場合は、不動産鑑定士の鑑定によって、共有物件の評価が決定されます。

鑑定には費用と時間がかかりますが、紛争解決のための必要経費として甘受するほかないでしょう。

鑑定の詳しい流れは、次の項目で解説します。

代償分割時の不動産鑑定の流れ

共有物分割請求訴訟において代償分割を行うに当たり、不動産鑑定が必要となった場合の大まかな流れは以下のとおりです。

裁判所に鑑定申出書を提出する

不動産鑑定を行う場合、まず代償分割を求める共有者が、裁判所に鑑定申出書を提出します。

鑑定申出書の書式は裁判所に用意がありますので、詳しくは裁判所に確認しましょう。

裁判所に鑑定費用を予納する

鑑定申出書の提出後、実際の鑑定に先立って、鑑定費用を裁判所に予納する必要があります。鑑定費用の金額は、裁判所が選任する不動産鑑定士や、鑑定の難易度などによって異なります。

おおむね20万円~100万円の間に収まることが多く、50万円前後の費用となることが多いです。鑑定費用は、鑑定申出書を提出した当事者に納付義務があります。

なお、共有者間で内部的に鑑定費用の負担割合を定めることは差し支えありません。

実際に不動産鑑定が行われる

鑑定費用の納付後、実際に不動産鑑定士による鑑定が行われます。共有物件の現況調査なども必要になりますので、鑑定書が出来上がるまでには2か月程度の期間を要するのが一般的です。

鑑定期間中は、共有物分割請求訴訟の期日は進行せず、鑑定書の完成後に改めて期日が指定されるのが通常です。

鑑定書の完成・当事者からの意見聴取

不動産鑑定士から裁判所に対して完成した鑑定書が提出されたら、鑑定書の内容を争うかどうかについて、当事者に対する意見聴取が行われます。

もし鑑定書の内容を争いたい場合には、鑑定書の内容が不当であることの論拠を、準備書面などを用いて提示しなければなりません。

代償金支払能力の証明

鑑定書の内容について当事者から異議が述べられなかった場合には、鑑定金額に基づいて代償金額が算出されます。

その後、代償分割の実現可能性を担保するために、代償金の支払い義務を負う共有者は、実際に代償金を支払えるだけの資力を有しているか(代償金支払能力)を証明する必要があります。

代償金支払能力の証明には、預金残高証明書や収入証明書などが用いられます。

和解または判決

上記の鑑定に関する手続が完了したら、代償分割の内容を確定する手続へと移行します。

当事者が鑑定内容をベースに和解をすることに合意した場合には、裁判上の和解が成立し、和解調書にその内容が記載されます。和解調書は確定判決と同一の効力を持ち、すべての訴訟当事者を拘束します(民事訴訟法267条)。

一方、当事者が一人でも和解でなく判決を望む場合には、基本的には、鑑定内容をベースに、裁判所により判決が言い渡されます(同法243条1項、250条)。

代償分割時の不動産評価等については弁護士にご相談ください

共有物分割請求訴訟を通じて代償分割を行う場合、どのように不動産の評価を行うかが重要なポイントになります。費用や時間といったコストを抑えるためには、できる限り評価合意を成立させることを目指すべきです。

そのためには、弁護士に共有者間の調整・説得を依頼することが有効になり得るでしょう。

評価合意の成立を目指すとしても、不動産相場を正しく把握していなければ、ご自身にとって不利な評価額をベースとして、代償分割の合意をしてしまうことにもなりかねません。

弁護士にご相談いただければ、適宜不動産業者などと連携のうえで、依頼者様にとって適正な評価額をベースとした評価合意が得られるようにサポートいたします。

共有物分割請求訴訟により代償分割を目指す場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。

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