他の共有者の共有持分が競売にかけられた場合の対処法
他の共有者の共有持分が競売にかけられると、共有関係から生じる思いがけないトラブルに巻き込まれてしまう可能性があります。
もし他の共有者の共有持分が競売にかけられた事実が分かった場合、トラブルを未然に防ぐため、弁護士にご相談のうえ、速やかに適切な対応をとることをお勧めいたします。
他の共有者の共有持分が競売された場合に想定される事態とは?
一部の共有者の共有持分が競売され、第三者に共有持分が渡った場合、他の共有者にとっては都合の悪いトラブルが生じる可能性があります。
見ず知らずの第三者との共有関係が発生する
法律上、共有持分の売却は単独で行うことができ、他の共有者の承諾をとる必要はありません。
したがって、一部の共有者の共有持分が競売される場合にも、他の共有者への事前の相談が全くない場合もあります。
もし競売が成立して、誰かが共有持分を取得した場合、他の共有者は見ず知らずの第三者との間で共有関係に入ることになってしまいます。共有物件の管理行為や処分行為を行う際には、共有者間での意思決定手続が必要になります(民法251条、252条)。
見ず知らずの第三者が共有者に含まれている場合、意思決定の際にトラブルが生じるリスクが高まるので、残された共有者にとっては、望ましくない事態といえます。
共有持分を落札した不動産業者から共有物分割請求を受ける
共有物件の共有持分が競売された場合、「利ざや」を得る目的で、不動産業者が共有持分を落札するケースがあります。
この場合、共有持分を落札した不動産業者は、他の共有者に対して「共有物分割請求」(民法256条1項)を行い、共有持分の高値による買い取りを迫ってくる可能性があります。
もし共有持分を手放したくない場合には、不動産業者からの要求が相場より多少高くても応じざるを得ず、思わぬ出費を強いられる可能性があるので注意が必要です。
訴訟で共有持分を手放さなければならなくなることも
共有持分を落札した不動産業者などとの間で、共有物分割協議がまとまらない場合、最終的には共有物分割訴訟が提起されます。共有物分割訴訟では、裁判所が様々な事情を総合的に考慮して、共有物の分割方法について判決を言い渡します。
その結果、共有物全体を売却したうえで、共有者間で代金を分割する「換価分割」が命じられる可能性もあります。
たとえ当事者である共有者が共有持分を手放したくないと考えていても、判決が確定すれば、その内容は当事者を拘束します。
そのため、不動産業者との間で共有物分割訴訟に発展した場合には、意図に反して共有持分を手放さなければならない事態が生じかねないので十分注意が必要です。
共有持分の競売によるトラブルを未然に防ぐ方法は?
共有持分の競売が完了してしまうと、共有持分の取得者との間でトラブルが生じてしまうおそれがありますので、その前に未然の対策を行うことが大切です。
債権者・共有持分権者と買い取り交渉をする
共有持分を不動産業者が落札した場合、後に共有物分割請求により、強硬な態度で共有持分の買い取りを迫られる可能性があります。
不動産業者は共有持分の売却を通じて大きな利益を得ようと考えているので、売却条件も買い手にとって厳しくなりがちです。
そのため、資金の融通が利くならば、競売を申し立てた債権者および現共有持分権者と交渉を行い、ご自身が共有持分を買い取る方向で話をまとめ、競売を取り下げてもらうという方法が考えられます。
共有持分を自分で落札する
債権者・現共有持分権者との間で買い取り交渉がまとまらない場合には、競売手続を通じて自ら共有持分を落札してしまうことも考えられます。
しかし、競売は入札制のため、確実に落札できるとは限りません。
そのため、競売対象となった共有持分の取得を希望される場合には、可能な限り、競売手続の外で任意で買い取りの合意を成立させ、競売を取り下げてもらうことが望ましいといえます。
第三者に共有持分を売却して共有関係から離脱する
共有状態から生じるトラブルのリスクを考慮して、共有持分を維持することを諦め、第三者に売却してしまうのも一つの選択肢です。
しかし、共有物件全体の現物を売却する場合と比較すると、共有持分単体での売却価格は低く抑えられてしまう傾向がある点がデメリットとなります。
また、共有持分はトラブルのリスクが大きく扱いが難しいため、そもそも買い手が見つからないケースも考えられます。
不動産業者の中には、共有持分の買い取りに力を入れているところもあるので、共有持分の売却を希望される場合には、複数の不動産業者に相談してみるとよいでしょう。
土地・建物の共有持分が競売された場合における法定地上権の成否
なお、土地の上に建物が存在するケースで、共有物件である土地または建物が抵当権に基づき競売された場合、「法定地上権」(民法388条)の成否が問題になり得ます。
法定地上権とは、もともと同一人が所有する土地・建物のどちらかのみが競売され、所有者が別になった場合に、特に当事者の合意がなくとも成立する法定の地上権を意味します。
共有持分は、土地や建物そのものではありませんが、土地・建物に関する権利であることには変わりがないので、法定地上権により建物権利者の権利を保護すべき場面が生じます。
土地・建物のどちらかまたは両方が共有である場合における法定地上権のルールは、判例法理によってある程度確立されているものの、非常に複雑です。
状況ごとに場合分けし、判例に基づく法定地上権の成否に関する結論と理由要旨を表にまとめましたが、個別具体的な事情に応じて慎重に検討する必要がありますので、具体的なケースに直面し、取り扱いに関してご不明な点がある場合には、弁護士に詳細な検討をご依頼ください。
状況 | 法定地上権の成否 | 理由要旨 |
---|---|---|
土地共有
建物単独所有 土地共有持分が競売された |
× | 法定地上権を成立させると、土地の他の共有者が不測の損害を被るため(最高裁昭和29年12月23日判決) |
土地単独所有
建物共有 建物共有持分が競売された |
○ | 土地の所有者は、もともと建物の共有者による土地の使用を認めているため(最高裁昭和46年12月21日判決) |
土地・建物ともに共有
土地共有持分が競売された |
× | 法定地上権を成立させると、土地の他の共有者が不測の損害を被るため(最高裁昭和29年12月23日判決、最高裁平成6年4月7日判決) |
土地・建物ともに共有
建物共有持分が競売された |
× | 法定地上権を成立させると、土地の他の共有者が不測の損害を被るため(最高裁昭和29年12月23日判決) |
共有関係から生じるトラブルの解決は弁護士にお任せください
共有物件については、他の共有者の共有持分が売却されること以外にも、共有者間の意思決定がうまくいかない、共有物分割請求を受けるなど、トラブルの種になり得る様々なリスクが潜んでいます。
実際にこれらのリスクが顕在化してしまった場合の対応や、予防のための対策については、弁護士にご相談ください。
依頼者様が置かれている状況を丁寧に分析したうえで、効果的な対処法についてアドバイスを差し上げたいと存じます。